狩猟とは(第十三話)

因縁

因縁 物事の起こる原因 定まっている運命

そうかぁ?この猪は Mさんの手に掛かるものと
ハナから決って居たのか・・・・。
雪に突っ伏す猪の 一際長い鬣を撫で付けてみた
幾らかの回り道はしたようだが こんな結末も内心
予想はしていた  此処までMさんは運に縁遠いと
云うか もう長い事結果に見放され続け 今回座る
待ち場に置いても 駆け寄る大鹿向け銃を構え
此処しかない其の瞬間 何と安全装置解除を忘れ
絶対のタイミングを失い 勢い良く逃げ去る後姿に
闇雲に発砲見事逃走を許した 大失態も演じた
Mさんにとり 言わば曰く付きの待ち場だった
そんな彼の良い所と云えば 私より一廻りも上の
年齢に見合い 落ち着いた物腰と漂う誠実さが
周囲を和ませ 何時しかこの猟隊にも 欠かせぬ
一人と成りつつあった。
猟に限らず 自然界に向き合っての営みは 実に
面白く 時には驚愕の筋書きが用意されている事も
まま有り 其の時々の結果のみ一喜一憂する事も
無く 自らが残す足跡を振り返り 形として映らない
大きな力により 導かれる事を今更ながら思い知る
何と人間一人の及ぶ力の脆弱な事か。

”あれぇ?” 声の主向け全員が振り返る? 確かに たった今狩り終えたばかりの山向にけ 駆け上がった猪の跡
林道上に点在する残雪に くっきり印されて居るではないか  一体何時?何処から来たのか? 猪の上って来た
ルートを目線で辿る・・・・・・。 やはりあそこ! あそこから渡って来たのか この猪の身に何が起こり こんな日中
移動をしたのか? 其れは幾つかの山向こうで他のグループにより 追われ逃げ込んだものとは 思い浮かぶが
果たして目前の この山中に止まって居るのだろうか。 
ドサッ! 雪上に座り込み 猪の向った先急斜面を見上げた
多くの可能性が脳裏を過ぎり 此処でハタと迷い出してしまう
どうも此れは私の悪い癖の様で こんな時何時も良い結末を
迎える事は無かったような気もする。
はて この入り足から 犬を乗せれば猪に辿り付くのは堅いの
だろうが モノはきっとひょいとばかりに尾根を越し 次の山向け
駆け下るか 一旦出た尾根を辿り奥山保護区向け登り出すのが
予測出来る むぅ?  よし此処は 思い切って上から被せる様に
攻めてみるか  一気に元ワレ向け駆け下る事を読み 其の周辺
猪の渡りを固め 各自持ち場の再確認 勢子とこの狩山裏手へと
回り込んだ 登山道利用で上り 山の鞍部へと身を乗り出したが
此処までの渡りは切って居ない(出足が無い)  果たしてモノは
残って居るのだろうか? 直ちに放犬勢子が一気に狩り下るのを
見送り 其処から尾根を降り重要な中待ちに座った 此れで先刻
懸念の逃走ルートは塞ぐ事が出来た。

狩り込みが進んでいっても 猪の動きは無かった  頃合とみて
この尾根先に待ち構える Mさん向け見切りしながら降りて行く
出足の痕跡は無い はて??
林道へと降りると 勢子も危なっかしい斜面を 立ち木を頼りに
下って来る ”どうだった” ”猪の動きは無い” ならこのモノは
いったい何処へ?   未だ戻らない新田犬サクラの回収を頼み
見切り直しと車の回収目的に裏山へと向かう 尾根先の大きな
カーブを曲った辺りで 車積無線から 誰かが何やら叫んで居る
のが判ったが 電波状態が悪く何が言いたいか聞き取れない

      降り続けた雪の朝
其の頃騒ぎの現場では 焚き火で暖を取る直ぐ頭で 戻り掛けたサクラによる激しい鳴き込み! 残って談笑して
居たMさんBさん大慌て無線で呼ぶが応答無い 其処でサクラの回収頼まれていたMさん 急斜面を銃も持たずに
這い上がり出した・・・・・・・・。  登り出すと直ぐ其処に犬は見えた ちょっとした岩棚の先には 密集した藪が!
人の姿を確認した犬は勇気付き 更に激しく吠え込み出し じりじり横の藪へと詰めより出した ”どぉれぇ何がぁ?”
Mさん覗き込んだ其の瞬間 バリバリバリ 黒い塊が走り去る! Mさん唖然呆然 あれ程わいわい騒いでたその
直ぐ上に潜んでたなんてぇ 銃を持たないMさん只見送るのみ

舞台は変わり後日の同じ場所(outdoors report出猟日記2004 2005.2.6)
再度Mさんを挑発せんと 目前に現れた猪はMさん向け駆け下る事無く あの日の続きと云うのか 舞台の花道
よろしく張り出した尾根の先縁を横切り 今度ばかりはMさんの手にj掛かった 因縁 現世では強く其の言葉を
意識させられる そう起きる時は何が有っても起きるもので まるで何かに導かれたような帰着を迎える

                                                              oozeki